【司法書士が解説】相続不動産の換価分割と譲渡所得税3,000万円控除の活用事例
親御様が亡くなり相続が発生したものの、相続人がそれぞれ遠方に住んでいるため、手続きがなかなか進まない――。
このようなケースは決して珍しくありません。
特に、ご実家などの不動産が遺産に含まれる場合、どのように分割するかで話がまとまらず、手続きを放置してしまうことがあります。
しかし、相続登記の義務化により、不動産の名義変更を怠ると罰則が科される可能性も出てきました。
今回は、相続人が海外と国内の遠方に住んでいた事例をもとに、不動産を売却して現金で分ける「換価分割」という方法と、その際に活用できる税金の特例「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」について、司法書士が分かりやすく解説します。
お客様のご状況
・被相続人(亡くなった方): お父様(愛知県知多市在住)
・相続人: ご長男(中国在住)、ご長女(千葉県在住)
・主な遺産: ご自宅の土地・建物(評価額2,000万円)、預貯金(約1,000万円)
ご長男は海外、ご長女は県外と、相続人のお二人が遠方にお住まいのため、ご自身たちで手続きを進めることに困難を感じていらっしゃいました。
相続手続きを放置すると、相続登記の義務化による罰則だけでなく、万が一相続人のどなたかが亡くなると「二次相続」が発生し、関係者が増えてさらに手続きが複雑化するリスクがあります。
司法書士によるサポート
遠方にお住まいのお二人とのやり取りは、主にメールやLINEを活用。
遺産分割協議はスムーズに進みましたが、換価分割と税金の特例活用には専門的な手続きが必要でした。
遺産分割協議書の作成
換価分割を行うこと、売却代金の分配割合などを明記した遺産分割協議書を作成し、相続人全員の実印での押印と印鑑証明書を取得しました。
相続登記
不動産を売却するためには、まず被相続人から相続人へ名義変更(相続登記)をする必要があります。
今回は、売却手続きをスムーズに進めるため、相続人の共有名義で登記を行いました。
「被相続人居住用家屋等確認書」の取得サポート
3,000万円特別控除を適用するために不可欠なのが、市区町村が発行する「被相続人居住用家屋等確認書」という証明書です。
この証明書の取得には、電気やガスの閉栓日がわかる書類や、家屋の取り壊しに関する書類など、多くの書類を収集・作成する必要があり、専門知識がないと非常に手間がかかります。
今回は私ども司法書士が、必要書類の案内から申請までをサポートしました。
不動産会社・税理士との連携
ご自宅の解体や土地の売却活動を行う不動産会社との連携、そして特例を活用した確定申告を行う税理士との情報共有など、各専門家と密に連携を取り、手続き全体が円滑に進むよう調整を行いました。
結果
専門家が介入し、計画的に手続きを進めたことで、無事に3,000万円特別控除の適用を受けることができました。
遠方にお住まいの相続人様にご負担をかけることなく、円満に遺産分割を終えられたことに、私どもも大変安堵しております。
解決策としての「換価分割」とは?
今回、相続人のお二人は、知多市にあるご自宅を売却し、その売却代金と預貯金を合わせて現金で分けることで合意されました。
このように、遺産である不動産などを売却(現金化)してから、その代金を相続人間で分割する方法を「換価分割(かんかぶんかつ)」と呼びます。
換価分割のメリット
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・公平な分割: 1円単位で公平に分割できるため、相続人間のトラブルを防ぎやすい。
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・管理の負担がない: 不動産を維持・管理していく負担がなくなる。
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・現金化できる: 相続人がそれぞれの生活資金などに活用できる。
換価分割の注意点・デメリット
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・譲渡所得税の発生: 不動産を売却して利益(譲渡所得)が出た場合、譲渡所得税という税金がかかる。
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・手続きの複雑さ: 売却活動や、後述する税金の申告手続きなどが必要になる。
【重要】不動産売却と譲渡所得税「3,000万円特別控除」
換価分割の最大の注意点が、譲渡所得税です。
しかし、一定の要件を満たせば、この税金の負担を大幅に軽減できる特例があります。
それが「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」です。
この特例は、相続した被相続人(亡くなった方)の家屋やその敷地を売却した場合、譲渡所得の金額から最高3,000万円まで控除できるという制度です。
※参照:国税庁『No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例』
特例適用のための主な要件
この特例を受けるためには、以下のような多くの要件をすべて満たす必要があります。(※一部抜粋)
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・相続開始の直前まで被相続人が一人で住んでいた家屋であること。
・昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること。(※耐震基準を満たす場合はこの限りでない)
・相続開始から売却まで、事業用や貸付用、居住用に使われていないこと。
・売却代金が1億円以下であること。
・家屋を取り壊して土地だけを売る場合は、一定の要件を満たすこと。
・相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。
今回のケースでは、この特例を活用できる可能性があり、相続人の皆様の税負担を大きく減らせることが分かりました。
まとめ:不動産を含む相続は専門家へご相談ください
相続人が遠方に住んでいる、遺産に不動産が含まれる、といったケースでは、ご家族だけで手続きを進めるのは大きな負担となります。
特に、換価分割や税金の特例活用には、法務・税務の専門的な知識が不可欠です。
どのタイミングで、誰が、何をすべきか。一つ手順を間違えるだけで、余計な税金を支払うことになりかねません。
当法人では、相続に関する初回のご相談を無料で承っております。
ご自身の状況に合わせて、最適な遺産分割の方法や、利用できる制度をご提案いたします。まずはお気軽にお問い合わせください。