50年前に亡くなった面識のない叔父の固定資産税が請求されたものの、無事に相続放棄が受理されたケース
1. お客様のご状況
ある日突然、遠方の市役所から「固定資産税の納付についての通知」が届いたEさんからのご相談です。
通知に記載されていた名義人は、Eさんが一度も会ったことのない叔父様(お父様のごきょうだい)でした。市役所に確認したところ、叔父様は約50年前に亡くなっており、これまでは叔父様の妻が固定資産税を納めていたとのことでした。
叔父様にはお子様がいなかったため、叔父様の相続人は、妻と叔父様のごきょうだいでした。Eさんのお父様はすでに亡くなっており、Eさんはお父様の立場を引き継いで、叔父様の相続人の一人となっていました。約2年前に叔父様の妻が亡くなったことで、市役所が他の相続人を調べ、Eさんのもとに通知が届いたという経緯です。
Eさんは「会ったこともない叔父の、縁もゆかりもない土地を相続したくない」と強く希望され、当事務所にご相談にいらっしゃいました。
被相続人(亡くなった方)
Eさんの叔父様(約50年前に死亡・お子様なし)
相続人の関係
| 続柄(叔父様から見て) | 状況 |
|---|---|
| 妻 | 固定資産税を納めてきたが、約2年前に死亡 |
| ごきょうだい(Eさんのお父様) | すでに死亡 |
| 甥(Eさん・ご相談者) | お父様の立場を引き継ぎ、叔父様の相続人に |
財産状況
叔父様名義の遠方の不動産(土地)
2. 当事務所からの提案&お手伝い
今回のポイントは、叔父様が亡くなってから約50年という長い年月が経っていることでした。
相続放棄は、原則として「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」に、家庭裁判所へ申述しなければなりません(民法第915条第1項)。この3か月を「熟慮期間」といいます。そのため、「50年も前に亡くなっているなら、もう相続放棄はできないのでは」と諦めてしまう方も少なくありません。
しかし、熟慮期間は「亡くなった日」から自動的に始まるものではなく、相続人ご自身が相続の開始と自分が相続人になったことを知った時から数えるのが原則です。Eさんは、市役所からの通知を受け取るまで、叔父様の死亡も、ご自身が相続人であることも知りませんでした。
そこで当事務所では、「市役所からの通知で初めて相続人であることを知った」という事実を家庭裁判所に正しく伝えることに力を入れて準備を進めました。
具体的なサポートの流れ
市役所からの通知書を確認し、相続放棄が終わるまでは固定資産税の支払いや不動産への関与を控えるようお伝えしました。
叔父様の出生から死亡までの戸籍、叔父様のご両親の死亡の記載のある戸籍、お父様の死亡の記載のある戸籍など、甥が申述する場合に必要な書類を当事務所で収集しました。
叔父様とは面識がなかったこと、市役所からの通知で初めて相続人であることを知ったことを、通知書の写しを添えて時系列で説明する上申書を作成しました。
叔父様の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ、相続放棄申述書と添付書類を提出しました。遠方の裁判所でしたが、Eさんが現地へ出向く必要はありませんでした。
家庭裁判所で審理が行われ、相続放棄の申述が受理されました。
3. 結果
家庭裁判所に相続放棄の申述が受理され、Eさんは叔父様の相続について、初めから相続人とならなかったものとみなされることになりました(民法第939条)。
これにより、面識のない叔父様の遠方の土地を引き継ぐ必要がなくなり、その固定資産税を相続人として負担する必要もなくなりました。
Eさんからは「50年も前のことなので無理だと思っていたが、相談してよかった」とのお言葉をいただきました。
司法書士からのワンポイント解説
「何十年も前の相続」でも相続放棄ができる場合があります
「何十年も前に亡くなった親族の固定資産税の通知が届いた」というご相談は、決して珍しくありません。熟慮期間は、相続人が自分のために相続の開始があったことを知った時から数えるため、亡くなった日から長い年月が経っていても、通知で初めて相続人であることを知った場合には、その時から3か月以内であれば相続放棄の申述ができる可能性があります。
また、最高裁判所は、相続人が相続財産はまったく存在しないと信じ、そう信じたことに相当な理由がある場合には、熟慮期間は相続財産の存在を認識した時(または通常認識できた時)から起算するという判断を示しています(最高裁昭和59年4月27日判決)。
いずれの場合も、「いつ、どのようにして知ったのか」を家庭裁判所に具体的に説明できることが重要です。通知書や封筒は捨てずに保管しておきましょう。
親が亡くなっていると、甥・姪が相続人になることがあります
亡くなった方にお子様がおらず、ご両親もすでに亡くなっている場合、配偶者とともに兄弟姉妹が相続人になります。その兄弟姉妹(今回のEさんのお父様)が亡くなっている場合、甥・姪が相続人の立場を引き継ぐことがあります。お父様が亡くなった時期によって、次のように整理が変わります。
| お父様が亡くなった時期 | 甥・姪の立場 | 熟慮期間の考え方 |
|---|---|---|
| 叔父様より前 | 代襲相続人として、叔父様の相続人になる(民法第889条第2項) | 自分が相続人になったことを知った時から3か月 |
| 叔父様より後(叔父様の相続について承認・放棄をしないまま死亡) | お父様の相続人として、叔父様の相続人の地位を引き継ぐ(再転相続・民法第916条) | お父様が持っていた叔父様の相続人の地位を、自分が引き継いだことを知った時から3か月(最高裁令和元年8月9日判決) |
どちらに当たるかで必要な戸籍や説明の仕方が変わるため、戸籍で正確に確認したうえで手続きを進めることが大切です。
相続人が相続財産の全部または一部を処分したときは、相続を承認した(単純承認)とみなされ、相続放棄ができなくなります(民法第921条第1号)。例えば、相続財産から税金を支払う、土地を売却する・貸す、といった行為には注意が必要です。
ご自身のお金で固定資産税を納めることが直ちに単純承認に当たるわけではありませんが、相続を受け入れる意思があったと受け取られるおそれもあります。通知が届いたら、支払いや手続きをする前に、まずは専門家へご相談ください。
相続放棄の申述の概要
| 申述期間 | 自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内 |
|---|---|
| 申述先 | 亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所 |
| 費用 | 収入印紙800円分(申述人1人につき)、連絡用の郵便切手(金額は裁判所ごとに異なります) |
| 甥・姪が申述する場合の主な書類 | 亡くなった方の出生から死亡までのすべての戸籍、亡くなった方の両親の死亡の記載のある戸籍、甥・姪の親(被代襲者)の死亡の記載のある戸籍、申述人の戸籍謄本、亡くなった方の住民票除票または戸籍附票 など |
3か月以内に相続するかどうかを判断できない場合は、家庭裁判所に熟慮期間の伸長を申し立てることもできます(民法第915条第1項ただし書)。
相続放棄が受理された後にすること
相続放棄が受理されると、家庭裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が届きます。固定資産税の通知が届いていた市区町村には、この通知書の写しなどを提出し、相続人ではなくなったことを伝えておきましょう。
なお、令和5年4月1日施行の民法改正により、相続放棄をした人が財産を保存する義務を負うのは、放棄の時にその財産を現に占有している場合に限られることになりました(民法第940条第1項)。今回のように、遠方にあって一度も使ったことのない土地であれば、通常はこの義務を負うことはありません。
東海市・知多市にお住まいだった方の相続放棄の申述先
相続放棄の申述先は、相続人の住所ではなく、亡くなった方の最後の住所地で決まります。亡くなった方が東海市・知多市などにお住まいだった場合は、名古屋家庭裁判所半田支部が申述先です。
| 名称 | 名古屋家庭裁判所 半田支部 |
|---|---|
| 住所 | 〒475-0902 愛知県半田市宮路町200-2(名鉄河和線「住吉町」駅から徒歩3分) |
| 電話番号 | 0569-21-0354(家事事件に関する問い合わせ) |
| 受付日 | 平日(土日祝日・年末年始を除く)。受付時間は裁判所にご確認ください。 |
| 管轄区域 | 半田市、常滑市、東海市、大府市、知多市、知多郡 |
※今回の事例のように、亡くなった方が遠方にお住まいだった場合は、その地域の家庭裁判所が申述先になります。当事務所では、全国の家庭裁判所への相続放棄の申述をサポートしております。
- 亡くなってから何十年経っていても、相続人であることを知った時から3か月以内なら相続放棄ができる場合がある
- 「いつ、どのように知ったか」を上申書で具体的に説明することが大切
- お子様のいない叔父・叔母の相続では、親が亡くなっていると甥・姪が相続人になることがある
- 相続放棄の前に、相続財産から税金を払う・土地を処分するといった行為は避ける
- 受理後は、受理通知書を市区町村に提出して相続人でなくなったことを伝える
参考:行政機関等の情報

















































