相続不動産の売却
相続に関する不動産のご相談で最も多いものの一つに、相続した土地・建物を実際には使わないので、売却したいというものです。不動産の売却は、人生で何度も経験することではありません。
より良い売却の方法、より良いタイミング、より良い特例の使い方など、ある程度専門家に相談して最低限の情報を把握した上で、実際の売却に進むことをおすすめします。
相続不動産の売却をお勧めする方
次のようなケースに当てはまる場合、相続不動産の売却をお勧めします。
■相続不動産に住むあるいは貸し出す予定がない場合
■相続財産が不動産しかない場合
■相続税の納税資金が不足する場合
ケース1 相続不動産に住むあるいは貸し出す予定がない場合
不動産を相続した場合、既に別に自宅を所持していたり相続不動産が遠方にある場合など、そのまま相続不動産を放置される方も多いと思います。
しかし、使う予定のない不動産を所有する場合は以下のデメリットがあります。
(1) 毎年、固定資産税を支払わなければならない
(2) 人の住んでいない家は傷みやすく資産価値が下がる
(3) 老朽化した際に修繕費や解体費がかかる
(4) 空き家にしておくと防犯上放火などの危険性がある
もちろん、故人のご自宅など思い出の詰まった不動産なので、しばらくはそのままにしておきたいとの考えもあると思います。
不動産の売却には相続人それぞれの思いや考えがあると思いますので、一概には言えませんが、デメリットがあることを含めて検討が必要です。
ケース2 相続財産が不動産しかない場合
このケースの場合、相続人が複数いる場合は、そのうちの特定の人が相続するか、あるいは相続人全員の共有で不動産を相続することになります。
特定の人が相続する場合、相続財産は不動産しかありませんので、遺産をもらえない相続人との間で不公平感が出る一方、共有名義で相続する場合は、後に売却する際に相続人全員の同意が必要となり、どちらも相続人同士の関係が良好でないとトラブルの原因となることが多いようです。
さらに、共有名義で相続した場合、後に共有者が死亡すると、死亡した共有者の相続人(配偶者や子など)が新たに加わり、不動産の共有者が増加するためますます調整が困難になります。
このような場合、相続不動産を売却しその売却代金を相続人間でわける(このような遺産分割方法を「換価分割」といいます)方法により、相続人間のトラブルを防止することができます。
ケース3 相続税の納税資金が不足する場合
相続が発生し被相続人の相続財産を調べたところ不動産や株式が中心で、現金はほとんどありませんでした。
相続税の納税は、亡くなってから10か月以内に、現金一時払いとなりますので、この様な場合、納税資金を準備できず相続税を一時で支払うことが難しい場合があります。
一時での現金納付が難しい場合、延納や物納といった方法もありますが、延納は利子税(年3.6%~6.0%)が付加されますし、物納は必ず許可されるわけではなく、以前に比べて許可されるケースは減少しているようです。
そこで、相続税の納税が難しい場合は、相続不動産を売却して、その売却代金を納税資金とすることで解決することができます。
なお、相続税の納付期限は死亡から10か月以内であり、通常不動産が売却されるまでには相応の時間がかかるため、このケースを検討される場合は早めの対応が必要です。
だれが相続するか決まっていない不動産を売却する場合
相続財産を未分割のまま売却する場合には、各相続人が法定相続分に基づいて共同で相続し、売却したものと考えることになっています。
この割合に基づいて売却代金等を按分し、それぞれが税金を計算して申告することになります。現にその不動産に居住している人は居住用の特例が使えます。
なお、売却してしまうと法定相続分でそれぞれが相続することを同意したと判断されます。後に分割協議をして法定相続分と異なる割合で代金を分割することは原則的には認められませんのでご注意ください。
相続してすぐ売却するときの注意点
亡くなった方の自宅土地について小規模宅地の特例を使う場合には、相続税の申告期限(亡くなった日の10ヶ月後)までにその土地を売却すると、80%の減額が使えず、50%の減額になってしまうことがあります。たとえ減額できると言っても、30%の差は大きいので、注意して進めなければなりません。
小規模宅地の特例は、土地の評価額を最大で80%減額するもので、実際にこの特例を使ったおかげで相続税がゼロになったというケースが良くあります。 配偶者がその土地を相続する場合にはいつ売却しても80%の減額ができることになっているので心配ありません。
この制度の適用を受けるにはその他にも様々な要件を満たす必要がありますので、必ず専門家に確認してください。
優遇税制・取得費加算特例
「相続税納税のための土地売却については譲渡税を安くする」という趣旨の特例があります。 この特例は、相続により取得した土地、建物などを、一定期間内に譲渡した場合には、相続税額のうち一定金額を譲渡資産の取得費に加算することができるというものです。
ちなみに、相続税申告から3年間はこの特例が適用され、非課税枠が適用できるのです。例えば、平成26年4月1日に相続開始(亡くなった)の場合には、平成29年4月1日が期限日になります。また、相続税を物納した場合でも利用できます。