【司法書士が解説】保険金は誰の手に?生命保険の受取人が死亡していた相続の解決事例
「万が一の時のために、生命保険の受取人を指定しているから安心」
多くの方がそうお考えではないでしょうか。
しかし、その指定した受取人が、被保険者(保険の対象者)よりも先に亡くなっていた場合、残されたご家族が想定外の事態に直面する可能性があります。
今回は、生命保険金の受取人が既に亡くなっていたために、相続関係が複雑化し、本来想定していなかった親族と保険金を分配することになった実際の事例をもとに、法律上の取り扱いや注意点を司法書士が解説します。
状況
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亡くなった方(被保険者)
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ご長男
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ご相談者
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Aさん(長男の妹)
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ご家族
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長男とAさんのお母様
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問題の状況
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・長男が加入していた生命保険の受取人が、既に他界しているお父様になっていた。
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・そのお父様には、お母様と結婚する前に前妻がおり、その間に3人のお子さんがいた(Aさんから見ると異母兄弟にあたる)。
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Aさんとお母様は、当然、長男の保険金はお母様が受け取るものと考えていました。しかし、手続きを進める中で、全く面識のない「お父様と前妻の間のお子さん」も保険金を受け取る権利があることが判明し、ご相談に来られました。
司法書士のサポート
生命保険金の受取人が既に亡くなっていた方の場合、生命保険金の受け取りは本来受け取るべき方の法定相続人で頭割りします。
つまり、この状況の場合依頼者Aさんのお兄様の生命保険金はお父様の法定相続人で頭割りすることになります。
また、お父様と前妻との間にいるお子さんもお父様の法定相続人になるため、お母さまから見てみると本来想定してなかった相続人と生命保険金を等分しなければなりません。
さらに、生命保険金は遺贈扱いになるため相続税がかかり、トラブルの種になりかねませんでした。
事務所としてはこちらの生命保険金の分配を円満な解決になるようサポートさせていただきました。
【解説】保険金の受取人が先に死亡していた場合、保険金は誰のもの?
通常、生命保険金は、指定された受取人が請求することで支払われます。
この権利は「受取人固有の権利」とされ、遺産分割協議の対象となる「相続財産」には含まれません。
しかし、その受取人が被保険者より先に死亡していた場合、保険契約の約款に特別な定めがなければ、保険金を受け取る権利は「亡くなった受取人の法定相続人」全員に移ります。
今回のケースに当てはめてみましょう。
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本来の受取人はお父様です。
しかし、お父様は既に亡くなっているため、お父様の法定相続人が保険金を受け取る権利を持ちます。
お父様の法定相続人は、「配偶者であるお母様」と「すべての子ども」です。
子どもには、お母様との間の子であるAさんと亡くなった長男、そして前妻との間の子3人も含まれます。
したがって、保険金は、お母様、Aさん、そして前妻の子3人の合計5名(※)で均等に分割(頭割り)することになるのです。
(※厳密には亡長男の相続分を他の相続人がどう引き継ぐかという問題がありますが、ここでは分かりやすさを優先しています。)
このように、Aさんとお母様にとっては想定外の事態であり、会ったこともない親族と大切な保険金を分けなければならない状況になってしまいました。
税務上の問題:遺贈扱いと相続税
さらに、税金の面でも注意が必要です。 生命保険金は、民法上は相続財産ではありませんが、税法上は「みなし相続財産」として相続税の課税対象となります。
今回のケースのように、被保険者の法定相続人ではない人(例えば、兄弟姉妹であるAさん)が保険金を受け取る場合、その保険金は「遺贈」によって取得したものとみなされます。
遺贈とは、遺言によって財産を無償で譲渡することです。遺贈によって財産を取得した場合、以下の点で注意が必要です。
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相続税の非課税枠が使えない: 「500万円 × 法定相続人の数」という生命保険金の非課税枠は、法定相続人が取得した場合にのみ適用されます。
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相続税が2割加算される: 配偶者と一親等の血族(子・親)以外が遺贈により財産を取得した場合、相続税額が2割加算されます。
このように、税負担が重くなる可能性があり、トラブルの火種になりかねません。
結果
今回は特に争いも無くスムーズに解決しましたが、上記の通り本来相続すると思っていなかった方と分配することになったり、税金がかかるためトラブルになるケースもあります。
今回の事例は、誰にでも起こりうる問題です。このような予期せぬトラブルを避けるためには、定期的に生命保険の契約内容を確認し、受取人を最新の状況に合わせて変更しておくことです。
・受取人が亡くなっていないか?
・離婚など家族関係に変化はなかったか?
・ご自身の意思に沿った受取人指定になっているか?
年に一度でも、保険証券を確認する習慣をつけることを強くお勧めします。
もし、ご自身の保険契約や相続関係にご不安な点があれば、お早めに当事務所にご相談ください。
複雑な事情を整理し、円満な解決へのお手伝いをさせていただきます。